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公団最後のビッグプロジェクト、「東雲キャナルコートCODAN」を訪ねる

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団地、アパート、ハイツ、マンション。グッドルームで紹介しているいろいろなお部屋、その外観も含めて「お、これはなかなか面白いな!」ていうもの、時々めぐり合います。そう、集合住宅って、おもしろい! 世界のおもしろい建築をたくさん巡っているタケさんに、おもしろい集合住宅を紹介していただくコラム。

最終回の今回は、東雲にあるオシャレ公団住宅、「東雲(しののめ)キャナルコートCODAN」を取り上げます。
完成時には話題になったこちらの建物、私も見学に行ったことがあります。
それでは、タケさんらしい精緻なレポートをお楽しみください。
(編集部)

公団最後のビッグプロジェクト、「東雲キャナルコートCODAN」を訪ねる

「最後の公団住宅」で「最後の団地」

タワーマンションが林立する東京都の湾岸エリア。当コラムの第10回の記事でもここのタワーマンションを2件取り上げました。
この湾岸エリアの一画に、タワーマンションに囲まれた十数階建て集合住宅の密集する場所があります。無関係の独立した建物が並んでいるように思えますが、実際は「東雲(しののめ)キャナルコートCODAN」という一つの団地で、しかも「最後の公団住宅」なのです。

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戦後、住宅不足と都市の人口増加に伴い、規格化された住宅を大量に建設しなければならなくなりました。この要請に応えるために設立されたのが日本住宅公団ですが、民間マンションの普及や住み手のライフスタイルの多様化など社会が変化するにつれて、組織も変革を余儀なくされます。実際、1955(昭和30)年に発足した日本住宅公団は、関連組織と統合しながら住宅・都市整備公団 → 都市基盤整備公団と名前を変えていて、2004(平成16)年に都市再生機構(略称UR)となっています。つまり「公団」の名を冠する組織はもう存在しません。

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しかも、人口の減少を踏まえ、地方自治体の公社・公営住宅の建設もほとんどなくなるでしょう。老朽化した団地の建て替えは行われますが、まったく新しい団地は今後まず登場しません(例外は災害復興住宅)。したがって、URへの変更年を挟んだ2003~2005(平成15~17)年に完成した東雲キャナルコートCODANは、「最後の公団住宅」で「最後の団地」というわけです。

6組の建築家が設計した、高密度なデザイン空間

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東雲キャナルコートCODANは6つのエリア(街区という)で構成され、5街区のみ民間の賃貸、それ以外が公団(現UR)の賃貸住宅です。
従来、公団は高層の大規模団地でも住棟間隔を広く取って樹木をたくさん植えるなど、ゆとりのある空間を造ってきましたが、東雲ではあえて高密度な空間にしています。
さらに、6組の建築家が6街区それぞれを設計したことで、街区ごとに個性的なデザインの集合住宅が並び、まるで映画の未来都市のような光景が現れています。こうした建築家の協同による集合住宅群は、福岡市のネクサスワールドや千葉市の幕張ベイタウンの他、熊本市や岐阜県にも実例があり、東雲もその系譜のひとつに該当します。

方眼紙のようなグリッド状の外観を持つ1・2街区

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1街区

さて、その公団としての集大成に位置する団地を見ていきましょう。まずは1・2街区から。1街区の設計は山本理顕氏で、彼はこの団地全体のデザインアドバイザーも務めています。2街区は伊東豊雄氏。2020年東京オリンピックのメインスタジアムの当初案の白紙撤回による再コンペが実施された際、応募した2グループのうち、採用されなかった方の建築家です。

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2街区

1・2街区とも方眼紙のようなグリッド状の外観が目を引きます。窓もバルコニーも同じマス目で統一してバルコニーの存在感を消したことによって、従来の集合住宅らしさからの脱却を図ったと考えられますが、たくさんの部屋が積み重なった状態を表しているという意味では、これこそ集合住宅ともいえます。随所に開けられた大きな穴は、特大のバルコニーであるとともに、住棟の内部を通る廊下に光と外気をもたらす役割もあります。

ブリッジが飛び交う3街区

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続いては3街区で設計は隈研吾氏。彼の名は聞き覚えのある方も多いでしょう。そう、東京オリンピック メインスタジアムの再コンペに勝利した建築家です。3街区は1・2街区とは対照的に、外部に露出したバルコニーや廊下という従来の方法を採り入れていますが、それらのデザインをシンプルに統一したことで、実に繊細で純度の高い外観に仕上がっています。

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もうひとつの見所は平行に並ぶ2棟の間に架け渡されたブリッジ。階ごとの位置をわざと不揃いにしています。たったそれだけのことでビルの間をチューブが飛び交う未来都市感が生まれるのですから面白いものですね。

“離れ” のある4街区

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これは4街区(山設計工房)の共用廊下側の外観。外側の突起部分も居室ですが、単独の賃貸区画ではなく廊下内側の住戸に付属します。要するに共用廊下を介した “離れ” なのです。他の街区にも離れを持つ住戸はありますが、外からその存在がわかりやすいのが4街区。

大胆に突き出た共用廊下のある6街区

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5街区は後に回して次は6街区(元倉眞琴・山本圭介・堀啓二設計共同体)。大胆に突き出たバルコニーや共用廊下が強烈な印象を放っています。また、普通は南側にバルコニー、北側に廊下を配置するものですが、この住棟ではバルコニーと共用廊下が同じ南面で階ごとに交互に混在しています。薄暗い廊下を日の当たる場所に移し、単なる通路ではなく街路としての価値を与えようという試みです。

古い団地「給水塔」をランドマークに取り込んで

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ところで冒頭のYahoo!地図の写真モードから、敷地を住棟で壁のように囲ったこの団地は外部に対して閉じているとの印象を持ったかもしれませんが、必ずしもそうではないという例を紹介しましょう。この写真は5街区(ADH / WORKSTATION)出入り口の階段から4~6街区間の抜け道を通して外部を見たところ。遠くに見える頭でっかちの塔は都営住宅の給水塔です。この光景が意図的なのか偶然なのかはわかりませんが、いずれにせよ、新しい団地が既存の古い団地の構造物をランドマークに取り込んだ構図に、私は街の歴史の伝え方の可能性を見出しました。

建物の老朽化と住民の高齢化、そして人口減少─ 集合住宅を取り巻く環境は厳しさを増していますが、だからこそ新しいデザインや手法を模索する必要があります。公団最後のビッグプロジェクトである東雲キャナルコートCODANのような試みを、URでも民間でもぜひ続けてほしい。その願いを込めて、このコラムを締めくくりたいと思います。

名称:東雲キャナルコートCODAN
住所:東京都江東区東雲1-9
備考:見学の際は住民のプライバシーに配慮してください。

「集合住宅っておもしろい」は今回で終わります。皆さんが部屋捜しをするときや街を散策するときのご参考になれば幸いです。ご愛読ありがとうございました。

写真と文・タケ

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