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ヨーロッパみたいな整然とした街並み。幕張ベイタウンを訪ねる

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団地、アパート、ハイツ、マンション。グッドルームで紹介しているいろいろなお部屋、その外観も含めて「お、これはなかなか面白いな!」ていうもの、時々めぐり合います。そう、集合住宅って、おもしろい! 世界のおもしろい建築をたくさん巡っているタケさんに、おもしろい集合住宅を紹介していただくコラム。

第7回は、「円形」集合住宅につづき、「四角形」。ヨーロッパ型の中庭を持つ街区型集合住宅を特集。幕張ベイタウンに、こんな整然とした街並みがあったんですね。
(編集部)

日本とヨーロッパ、街並みの違いの理由とは?

このコラムの第5回では円形の集合住宅を紹介しました。さて今回は四角形です。まずはグーグルマップで東京の銀座とオランダの首都アムステルダムの街並みをご覧ください。


東京都中央区銀座


オランダ アムステルダム

アムステルダムは、道路で囲まれた区画(街区という)の外周を建物がぐるりと囲み、内側に中庭があるタイプが多いことが見て取れます。ヨーロッパに比べて日本の街並みは雑然としているとよく指摘されますが、その理由のひとつは、日本は土地・建物が細分化されているためです。また、計画的に開発されたニュータウンでも、ヨーロッパのような街区型建築は見られず、個々の建物が規則正しく並ぶ街並みばかりが目につきます。その背景には、土地付き一戸建てや南向き(日当たり)重視という、伝統的な家屋敷へのイメージが根強く残っていることが挙げられます。

私はこのような現状を否定するつもりはありませんが、街区型建築が普及していないのは街造りの選択肢を狭めていて少々もったいないなあと思います。実は、日本でも街区型が普及する可能性はありました。同潤会アパートです。

日本の街区型集合住宅の先駆け、同潤会アパート


同潤会清砂通りアパート、現存せず、東京都江東区白河(地理院地図、撮影時期 1961~64年)
ロの字型や凸凹型の建物が同潤会アパート。

同潤会アパートは関東大震災後の復興住宅で、集合住宅の先駆けとして有名ですが、そのいくつかは街区型を意識した配置計画になっていました。この手法が続けば日本でも街区型が普及したかもしれませんが、戦争を経てほぼ途絶えてしまいます。

中庭が魅力的だった広島の京橋会館

とはいえ、戦後もゼロだったわけではありません。その数少ない街区型集合住宅は、原爆の被害が色濃く残る広島市にて実現します。京橋会館というユニークな名前のこの集合住宅は、当初は広島市が建設を進めたものの資金難で工事が中断、広島県住宅公社が引き継いで1954(昭和29)年に完成し、その後、公社から市営住宅に移管、老朽化のため2011(平成23)年に解体されました。

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京橋会館 外観

キャプション

京橋会館 中庭

街区型集合住宅の大きな魅力は中庭の存在です。京橋会館の中庭は整備する余力がなかったのか決して小綺麗ではなかったものの、4階建ての建物に囲まれた中庭は高さ・広さとも適度な距離にまとまり、とても心地よい空間でした。小中学生のとき、校舎や渡り廊下で囲まれた中庭空間に居心地の良さを感じた経験を持つ人は多いでしょう。建物に囲まれているという安心感は、学校への帰属意識を生み出しますし、集合住宅であれば、住民同士のコミュニティ意識につながります。また、外部から半ば独立した自分達だけの共用空間を持つことは、都会での生活に大きなゆとりをもたらします。

90年代に誕生した千葉の幕張ベイタウンの整然とした街並み


千葉市 幕張ベイタウン

京橋会館に続く街区型集合住宅は長年、全くといっていいほど建てられませんでしたが、40年後の1990年代、幕張ベイタウンが出現します。幕張ベイタウンは、幕張メッセや千葉マリンスタジアムなどがある千葉市の幕張新都心における住居エリアで、街区型集合住宅が並んだヨーロッパ型の街並みを官民共同で造るという意欲的な試みがなされました。

幕張ベイタウンの街並み

幕張ベイタウンの街並み

パティオス18番街 外観、事業者:清水建設グループ

パティオス18番街 外観、事業者:清水建設グループ

幕張ベイタウンの集合住宅はパティオス(スペイン語で中庭を意味するパティオから)といい、それぞれ1番街・2番街…と番号が付いています。第1期分の完成は1995(平成7)年で、その後も順次建設が進み、現在は約20棟のパティオスが完成しています。各パティオスは街造りのルールであるガイドラインに基づいて設計されていますが、外観に関する規制は緩いようで、ヨーロッパに比べると自由なデザインが見られます。

パティオス7番街 外観、事業者:都市再生機構

パティオス7番街 外観、事業者:都市再生機構

パティオス7番街 中庭

パティオス7番街 中庭

パティオスの中庭を外部に開放するかどうかは、各棟を手掛けた事業者もしくは管理組合の判断に委ねられているらしく、私が見て回ったところ、都市再生機構(旧・日本住宅公団)や千葉県住宅供給公社といった公的事業者のパティオスの中庭はオープン、民間事業者の方はクローズ(若干の例外あり)という状況でした。なお、建物内部への出入りはどのパティオスもオートロックで管理されています。

パティオス9番街 外観、事業者:千葉県住宅供給公社

パティオス9番街 外観、事業者:千葉県住宅供給公社

パティオス9番街 エントランスのひとつ

パティオス9番街 エントランスのひとつ

パティオス9番街 中庭

パティオス9番街 中庭

パティオス4番街 外観、事業者:丸紅グループ

パティオス4番街 外観、事業者:丸紅グループ

パティオス4番街 前庭 中庭は部外者立ち入り不可だが、エントランスの前庭だけは外部に開いている。

パティオス4番街 前庭
中庭は部外者立ち入り不可だが、エントランスの前庭だけは外部に開いている。

そもそも鉄筋コンクリート造集合住宅は閉鎖的になりがちで、オートロックの普及がその傾向を一層進めました。もちろん、防犯や安心のためにオートロックは必要ですが、外部と内部の境界が厳格なこと、そして土地のバラバラな開発が、街と住民との断絶を招いている気がします。まとまった大きさと中庭を持つ街区型集合住宅はその断絶の架け橋になる可能性があり、もう少し増えることを期待したいものです。

注意:パティオスの中庭を見学する際は住民のプライバシーに配慮し、短時間の見学にとどめてください。

(写真と文・タケ)

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