フォーピースバンド Homecomings のメジャーデビューアルバム「Moving Days」は、その名の通り「引越し」がテーマ。goodroom とのコラボレーションで、メンバーの皆さんによる連載がスタートします。
第3回は、ベースの福田穂那美さん。生まれ育った京都からのお引越し。上京を決めた際に感じたことや住む街を選んだ時のエピソードを聞かせてくださいました。
text & photo : Homecomings 福田穂那美
2019年の夏に、生まれ育った京都の街から東京へ引っ越してきた。それは上京するということに加えて、私にとって初めての一人暮らしの始まりでもあった。長く続いた実家での暮らしは特に不自由なく楽しかったし、京都という街もとても好きだったけれど、バンドで国内、海外といろんな場所へ行って演奏しているうちに、別の街でも暮らしてみたいという気持ちが少しずつふくらんでいった。
私以外のメンバーは大学時代に既に一人暮らしを始めていて、それを横目に見てうらやましく思いつつも特に実家を出る理由も見当たらず、何となくこのままでもいいのかなという、私の優柔不断な性格をそのまま表しているような思考で現状維持を保っていた。そんな中、ぽんちゃん（畳野さん）となるちゃんが関東、私と福富くんが京都という、位置的にはバンドが二つに分かれた状態になり、今までずっと4人まとまって関西で活動していた私たちにとって大きな変化が訪れた。私としては、このままずっと京都にいるのかなあと何となくぼんやり思っていたところに、急に東京へ引っ越すという新たな選択肢が現れて、少しの動揺と少しのわくわく、いよいよ実家を出るのかという寂しさが混ざり、それは他人事のようにも思えた。
けれど、京都で生まれ育った私以上に京都という街に愛着を感じている福富くんが東京へ行くことを前向きに考えだしたのがきっかけで急に現実味を帯びた話になり、実家を出るのはまさにこのタイミングなのではないかと自分でも思い始めた。東京へ行くということをどうやって両親に伝えたのか、記憶がぼんやりしている。かしこまった場で話さなかったのは確か。こんなに長い間一緒に暮らしていた娘が、まさかこんなタイミングで東京へ行くと言い出して、両親は本当に驚いただろうと思う。年の離れた妹はとても寂しがっていた。私も姉が就職のタイミングで引っ越したときは、妹ほどではなかったけど寂しく思ったし、生まれてからずっと同じ家で暮らしていた姉が突然家からいなくなるのは、何かが欠けてしまったような気分になるというのは知っていた。なぜか自分が実家からいなくなるのが想像できていなかったが、その時は突然きた。
ライブで月に何度か東京へ行くタイミングがあったので、そのときに時間を作って部屋を探すことにした。部屋を探すといっても、東京の街で私が知っていた街はライブでよく行く新宿や渋谷、下北沢などで、住むことをイメージするのが難しい街ばかりだった。行ったことのない街の物件で一つ気になったものがあったので合間を見つけて行ってみたけれど、初期費用ってこんなに高いのかとショックを受け、初めて内見で訪れた物件はあきらめた。その街がとてもよかったのでほかの物件も探してみたけれど、なかなかしっくりくるところがなくて、もう引っ越せないんじゃないかという気持ちでいっぱいになった。
そんなある日、福富くんが住みたい街を見つけたと連絡してきた。その街の場所は私が考えていた範囲からは大幅にはみ出していて、何となく自分の中でちょっと遠すぎるなあと思っていた私は、そこまで乗り気ではなかったけれどついていってみることにした。すると、実際に行ってみたその街はすごく住みやすそうで、自分がそこで生活していることもたやすく想像できた。ここでなら暮らせるかも。隣では福富くんが絶対この街に住むと目を輝かせていた。
（Homecomings 福田穂那美）
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